日本で見かける「つ」のローマ字表記には、「tu」と「tsu」の二通りがあります。
キーボードで「つ」を入力する際、「tu」でも「tsu」でも画面には「つ」と表示されるため、どちらの表記が正しいのか疑問に思うこともあるでしょう。
「つ」のローマ字表記には、訓令式の「tu」とヘボン式の「tsu」があり、どちらも正式な表記として受け入れられています。
この記事では、「つ」をローマ字でどのように表記するか、その選び方について、「tu」と「tsu」それぞれの歴史的背景や文脈を踏まえて詳細にご説明します。
「つ」のローマ字表記、どちらが適切?「tu」または「tsu」
ローマ字で「つ」を表記する際に、「tu」と「tsu」のどちらも正しい表記ですが、使う状況によって選択が異なります。
日本で一般的に使われる主なローマ字表記法には、ヘボン式と訓令式の二種類があります。
これらの表記法の特徴について見ていきましょう。
ヘボン式ローマ字
ヘボン式ローマ字は、1859年に来日したアメリカ人ジェームス・カーティス・ヘボンによって導入されたものです。
この方式では、「つ」は「tsu」、その他に「し」は「shi」、「ち」は「chi」と表記されます。
この表記法の特徴は、英語の発音に近い表記を採用している点です。
訓令式ローマ字
一方、訓令式ローマ字は1954年に内閣府によって日本国内の公式な標準表記法として確立されました。
「つ」は「tu」、「し」は「si」、「ち」は「ti」と記されます。
この方法は、発音よりも文字の規則性を優先する表記法として知られています。
したがって、どちらの表記法もその使用場面に応じて選択されるため、どちらを採用しても適切です。
ローマ字表記の歴史と現代での使い分け
日本の小学校では、現在も国語の授業で訓令式ローマ字の学習が行われています。
一方で、ヘボン式ローマ字は人名や地名、パスポートでの表記に主に使用されることが多いです。
このように場面によってローマ字表記が異なる理由は、その歴史的背景にあります。
もともとヘボン式が使われていましたが、日本語の発音に合わないという批判が増えたため、1885年に物理学者の田中館愛橘氏が「日本式ローマ字」を提案しました。
これは日本語の音韻により適した表記法です。
この新旧の表記法に関する議論は激しく、多くの人々がすでに慣れ親しんでいたヘボン式からの移行に抵抗がありました。
しかし、地名表記を国際的に統一する必要があるとの見解が強まったことから、文部省(現在の文部科学省)は1937年に訓令式ローマ字を公式に採用し、日本式ローマ字を基にさらに改良を加えたものが広く用いられるようになりました。
ヘボン式ローマ字が広く使われる背景
訓令式ローマ字が公式の表記法として定められているものの、広くヘボン式ローマ字が用いられている実状があります。
この現象は、第二次世界大戦後の占領期にヘボン式の採用を推奨したことが大きく影響しています。
その結果、公的な場でもヘボン式が一般的に使用されるようになりました。
1954年、日本が主権を回復した後も、内閣府は再び訓令式ローマ字の使用を告示しましたが、ヘボン式の普及は続きました。
内閣府が国際的な関係や既存の習慣を一変させることの難しさを認識し、ヘボン式の使用も容認したためです。
これにより、ヘボン式と訓令式のどちらも選択できるようになり、英語発音に近いヘボン式が国際的に広く採用されることになりました。
結果として、公式には訓令式が採用されているにも関わらず、実際にはヘボン式がよく使われています。
まとめ
「つ」のローマ字表記には「tu」を使用する訓令式と「tsu」を使用するヘボン式があり、どちらも正しい表記とされています。
ヘボン式は国際的に認められた規範に則っており、特に外国人には発音がしやすいため、現在も広く採用されています。
例えば国土交通省はパスポートの表記に、外務省は道路標識などにヘボン式を用いています。
一方で、訓令式は日本国内での教育や公式文書で依然として使用されています。
どちらの表記法を用いるかは、目的や文脈に応じて異なりますが、ローマ字表記の知識を深めることで、より適切な選択が行えるようになります。